メディカルスタッフプログラム1(JDDW)
11月5日(土) 9:00–12:00 第10会場(ポートピアホテル本館 和楽)
MS1-4
包括的がん医療におけるオンコロジストの役割と展望
佐藤 温
- 弘前大大学院・腫瘍内科学
「がん」と診断されたその瞬間から,患者は「がん患者」となります.その瞬間から,患者と家族のこれまで送ってきた生活や人生が劇的に変化してしまいます.その多くは耐え難い苦痛となります.つまり,医療者は耐え難い苦痛を抱いているがん患者に治療を行うことになります.がん治療の目的は,治癒,延命,そしてQOLの維持改善です.医療者は,まず,がん患者に対し医療技術をもって治療を行います.外科的手術,薬物治療,放射線治療といった科学のちからによる「がんそのものに目を向けた治療」を行っていきます.これをキュアと呼びます.その後,治癒に至らずに再発あるいは増悪しますと,痛みなど身体の苦痛や,不安や恐怖といったこころの苦痛が増えていきます.医療者は,関係性のちからによる「苦痛に目を向けた治療」を行うことになります.これをケアと呼びます.「がんに目を向けた治療」と「がんそのものに目を向けた治療」は同時に並行して行われます.これを包括的がん医療と呼びます.言い換えれば,キュアとケアの統合であり,医療倫理に基づく求めるべき医療そのものです.ところでがん患者は,診断を告げられた時から苦痛を抱えていますから,診断時から「がんそのものに目を向けた治療」と「がんそのものに目を向けた治療」の両治療が同時に必要になるわけです.米国臨床腫瘍学会(ASCO)は1998年に,がん患者に対するケアの責任は診断したその時から病気の全過程に渡ってオンコロジストにあると提唱しました.そして,適切な抗がん治療とは,終末期までの全ての経過における症状管理や心理的サポートを含むものである旨を明記しています.オンコロジストは緩和ケアを重要な臨床技能として学習し実践することが求められています.医療はがんという病気の全過程において関わることになります.オンコロジストもまた苦痛を抱いている患者家族に最後の瞬間まで長い期間にわたって関わり続けています.医療資源の乏しい現状の中,緩和ケアの教育の普及が必要です.