メディカルスタッフプログラム2(JDDW)
11月5日(土) 14:00–17:00 第10会場(ポートピアホテル本館 和楽)
MS2-6

炎症性腸疾患患者に対する,チーム医療における臨床心理士の役割

平野 友梨
国立成育医療研究センター・消化器科
炎症性腸疾患(IBD)は,治療を行っていても再燃・再発を繰り返す疾患であり,患者の生活や心理面への影響を及ぼす結果,心理社会的問題が生じる場合が少なくない.大量の薬の内服,薬の副作用による体や顔貌の変化,手術,食事制限へのストレス,仕事・学校など社会生活の営みの阻害,周囲の無理解,ストーマ,結婚,妊娠や出産についての不安など,自分の理想から離れてしまうことによる喪失感や日常的に抱えるストレスは計り知れない.また,IBD患者は,精神疾患を合併する率が高いといわれており,成人の潰瘍性大腸炎患者の27%,クローン病患者の31%という高い確率で,うつ病を有しているとの報告もある.さらに,IBDは,患者だけでなく患者を支える家族にもさまざまな影響を及ぼす.家族自身が将来への不安を抱き,患者の闘病を支えることによる疲労感や無力感を感じていることも少なくない.家族のメンバーが慢性疾患になることは,家族にとっての「危機」といえ,家族力動が変化し,うまく家族が機能しなくなる場合もある.このように心理的社会問題が複雑化する場合や,精神疾患を合併すると,治療管理のアドヒアランスが大きく阻害されることも少なくない.そのため,慢性疾患の診療においては,患者および患者を支える家族の心理面への理解と配慮が必要である.
近年では,身体疾患患者の心理的問題に対応するために,精神科医師や臨床心理士がチーム医療に介入する動きが広まっており,その役割が注目されている.臨床心理士は,心理面接や心理検査を用いて,患者や家族の心理的問題を多面的に評価し,カンファレンスなど他職種との連携を通して,チームの患者理解につながるよう努めている.時に,患者と医療スタッフの「橋渡し役」として機能するなど,チームに対する介入も重要な役割である.患者と家族が病と向き合えるよう,認知行動療法や家族療法などの心理療法を用い,患者の病気の受容や治療の意思決定の過程を支えたり,心理的問題への対応や適切な療養行動の促進のための工夫を行っている.
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