褥瘡は寝具や座面,さらには医療機器などから持続的に圧迫を受けることで皮膚や皮下組織に生じる虚血性障害であり,高齢者や重症患者に多く発生する.高齢化率が極めて高いにもかかわらず,日本の褥瘡有病率は世界一低いといわれ,他国からもその対策はモデルとされている.他の先進国が,褥瘡発生を医療事故として医療費の償還を行わないというアウトカムを重視したペナルティーシステムを導入したのに対し,日本は,多職種連携や診療計画書の作成などのケアプロセスを重視した褥瘡ハイリスク患者ケア加算というインセンティブシステムを導入したことが功を奏したと考えられる.この診療報酬は,チーム医療の実践が要件となっており,我が国に新しい医療体系を根づかせたと評価されている.この加算に至る背景には,褥瘡予防・治療ガイドライン(日本褥瘡学会)の発行と皮膚・排泄ケア認定看護師による卓越した創傷看護技術が基盤となっている.さらに,この加算制度により,優れたチーム医療の推進が,予防のみならず褥瘡の治癒促進にも功を奏していることが示されている(Sanada H, et al., 2009).治癒が困難な場合においても,スキンケア,栄養管理,リハビリテーション,薬剤選択など,各専門職が有する高度な知識と技術が褥瘡ケアに生かされることで治癒が促進する症例を多く経験している.さらには,超音波画像装置(Aoi N, et al., 2009),サーモグラフィ(Nakagami G, et al., 2010)や創部バイオフィルム検出(Nakagami G, et al., 2017)などにより,深部損傷褥瘡やクリティカルコロナイゼーションを早期に発見することも治癒促進につながっている.次なる課題は,病態が複雑化する患者から褥瘡リスクの高い者を効率的に同定するための,ビッグデータを用いた褥瘡リスクアセスメント法の実装と,終末期における防ぎきれない褥瘡への対応である. 本シンポジウムでは,チーム医療によって実現された効果的な褥瘡予防とその回復促進の実際について紹介し,多様化する褥瘡患者にいかに対峙していくかを考えるきっかけとする. |