近年のがん診療の進歩には目覚ましいものがあり,治療体系自体に大きな変化が起こっている.外科治療における鏡視下手術,ロボット支援下手術などの低侵襲手術,放射線治療におけるIMRTや粒子線治療などの高精度治療,薬物療法における分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬,がんゲノム医療など,今後もさらなる進歩が期待されている.緩和医療・ケアの領域においては,症状緩和のための薬物の開発もさることながら,医療者と患者・家族のコミュニケーションのあり方,アドバンス・ケア・プランニングや意思決定支援の実装など,多くの試みがなされてきた. 2007年に施行されたがん対策基本法とそれによって策定されたがん対策推進基本計画においても,当初は「治療早期からの緩和ケア」が目標であったが,現在では「がんと診断された時からの緩和ケア」が目標とされている.がん対策推進基本計画と時期を同じくして策定された大学院教育プログラム「(いわゆる)がんプロ」においても,緩和医療・ケアに携わる人材の育成を目標に掲げて,5年間のプログラムを3期におよび継続してきた. このように,緩和医療・ケアの実臨床と人材育成のプログラムが全国レベルで行われてきたが,実際のがん診療の現場においては,いまだに「がん難民」と呼ばれるような患者・家族の存在,実際に機能している多職種チームが果たしてどのくらいあるのかなど,多くの問題点が指摘されている.今年度は,第4期のがん対策推進基本計画が決定されるが,第1期から回を重ねるごとに,内容・課題が増えている.その理由として,がん治療の進歩によって,がん治療を継続しながら生活する患者が多くなっていることや高齢化に伴うがん患者の増加などが考えられる. 本発表では,多角化しているがん診療において,緩和医療・ケアの立場から,あえて「がんの緩和ケア:緩和腫瘍学」という視点で,包括的にがん診療を俯瞰することを目指したアプローチについて,自施設での経験も含めて紹介したい. |